● 空爆直後、NobitexからのBTC流出が700%超急増し、越境移転需要が顕在化。
● USDT(特にTRC20)が外貨バッファーとして機能し、資本退避の実需が確認された。
● 地政学リスク下で、ビットコインとステーブルコインは実際に越境資金移動手段として活用されている。

2026年2月28日、米・イスラエル軍による空爆が報じられた直後、イラン最大の暗号資産取引所Nobitexからのビットコイン流出が急増した。ChainalysisおよびEllipticの分析によれば、数日間で約1,030万ドル相当が国外取引所や自己保管ウォレットへ移転され、空爆直後の1時間だけで約290万ドル、前日比700%超という顕著なスパイクが観測された。

この動きは、単なる投機的売買ではなく、資本退避の色合いが強い。イランでは2026年初頭以降、通貨リヤルが約30%下落し、外貨不足や制裁強化が続く中で、資産凍結や銀行制限への不安が高まっている。過去の反政府デモやインターネット遮断時にも、個人ウォレットへのビットコイン引き出しが急増しており、今回の動きもその延長線上にあると考えられる。

一方でTRM Labsは、同時期に政府主導の大規模なインターネット遮断が発生し、全体の取引量は約80%減少したと報告している。つまり、この短期的な流出スパイクは「市場の全面的なパニック」というよりも、「アクセス制限前の駆け込み移転」という側面を持つ可能性がある。

オンチェーンで特に注目すべきは、①取引所別BTCアウトフローの急増、②USDT(とりわけTRC20)の送金動向、③自己保管ウォレットへの移転拡大である。

Ellipticは、イラン中央銀行が約5億ドル相当のUSDTを活用している痕跡を指摘しており、ドル建てステーブルコインが実質的な外貨バッファーとして機能している可能性も浮かび上がる。

国内主要取引所は厳格なKYCと送金制限を課しているが、市民はP2P取引やOTC、非公式ネットワークを組み合わせながら暗号資産を取得・移転している。特にUSDTは、価格安定性と送金コストの低さから利用が拡大している。

ビットコインおよびステーブルコインは、検閲耐性と越境移転性という強みを持つ一方で、価格変動リスクや公開台帳による追跡可能性という制約も抱えている。それでも、物理的な金やハワラと並び、デジタル手段としての即時性と可搬性は明確な優位性を持つ。 エックスウィンリサーチは2026年2月19日付の記事「過去最高の世界の不確実性と静かなオンチェーン」において、世界的な不確実性が歴史的水準に達していることを指摘した。今回のイラン事例は、その不確実性が顕在化した局面において、ビットコインとステーブルコインが実際に資金移動インフラとして機能していることを示す象徴的なケースである。

今後、不安定性が増す世界において、ビットコインとステーブルコインは確実に「越境資金移動手段」として利用され続けるだろう。価格とは別の次元で、実需としての機能が可視化された事例と言える。

オンチェーン指標の見方

All Stablecoins(ERC20):Total Supply:ERC20規格のステーブルコイン(USDT・USDCなど)の総供給量を合算した指標で、市場全体の「待機資金(ドライパウダー)」の規模を示す。総供給量が増加=新規資金流入やリスクオン準備、減少=償還・資金流出やリスクオフ傾向を示唆することが多い。価格上昇の“先行シグナル”になりやすいが、実際に取引所へ流入しているか(Exchange Inflow)と組み合わせて確認することが重要。

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